水面形の計算

TYS-RBAモデルでは、任意断面形、台形、複断面形の3種類の断面形状を対象としている。

各断面の流れの計算は、任意断面形と台形断面についてはレベル1の平均流公式を用い、複断面形についてはレベル2の平均流公式を用いている。

ここでは複断面形の水面形の計算について詳述する。

断面形状

本モデルは、次の任意・台形・複断面の3種類の断面形状を対象としている。

任意断面形

具体的な断面形状を特定しないが、水深の変化による流積・径深の関係を次の近似式で表現する。

流積:(h:水深)

径深:>

係数の4つのパラメータを事前に最小自乗法で求めておき、それをプログラム実行時に読み込む。

任意断面形の流積と径深の求め方

台形断面

下図のように河床幅(B)と左右岸勾配(B1,B2)の3つのパラメータを読み込む。

図-3.1 台形断面

複断面形

河床断面をできるだけ簡略した形にモデル化し、下のような複数の矩形の組み合わせで複断面形を表現する。

図-3.2 複断面

水理諸元

水深の変化に応じて、河道断面の水理諸元は変化する。河道の断面形状に応じた流積・径深を以下にまとめる。

任意断面形

任意断面形の流積・径深は、水深:とすると、以下のように算出される。

流積: ・・・(3.1)

径深: ・・・(3.2)

台形断面

台形断面の流積・径深を河床幅:、左右岸勾配:を用いて表すと以下の通りである。

流積: ・・・(3.3)

径深: ・・・(3.4)

複断面

任意・台形断面は水深の変化に対する流積・径深の変化は線形であるが、複断面の場合は、低水敷~高水敷の境界で断面の変化点があるため、流積・径深の変化は線形ではない。

図-3.2のような複断面において、河床変動による河床高に変化に伴って各分割断面の流積・潤辺・径深の算出式は異なる。河床位置に応じた各分割断面の水理諸元を整理する。 ここで、現況の河床高:、初期の河床高:、水深:、高水敷の高さはとする。

$Z<Z0+Z2$の時(河床高が低水敷の範囲)

①$Z+h<Z0+Z2$

②$Z0+Z2≦Z+h<Z0+Z1$

③$Z0+z1≦Z+h$

$Z0+Z2≦Z<Z0+Z1$の時(河床高が低い方の高水敷の範囲)

①$Z0+Z2≦Z+h<Z0+Z1$

②$Z0+Z1≦Z+h$

$Z0+Z1≦Z$の時(河床高が高水敷よりも上)

①$Z0+Z1≦Z+h$

等流水深

任意断面・台形断面

任意断面・台形断面の等流水深は、次式のマニングの平均流公式が成立する水深を示す。

 ・・・(3.5)

ここで、流量、:流積、:径深、:粗度係数、:河床勾配である。

複断面

複断面を高水敷・低水敷で複数の断面に分割して考えた場合、任意の分割断面iの平均流速公式は、

 ・・・(3.6)

ここで等流水深は(3.6)式が成立する水深を示す。

:分割断面の流量、:分割断面の流積、:分割断面の径深、:分割断面の粗度係数である。

河道断面ごとに断面の合計流量と河床の縦断勾配が既知であるので、水深:を仮定して各分割断面の流積・径深を求め、(3.6)式より各分割断面の流量を計算する。そして、合計の流量がに等しくなるまで(実際の計算では所定の許容誤差内収まるまで)水深を変えて収束計算を行う。

また、(3.6)式において河床勾配になる状況では当該断面の等流計算が行えないため、本プログラムでは、河床勾配の算出方法として

  1. 入力データで区間を定め、区間内の平均河床勾配=当該区間の断面の河床勾配とする。
  2. 各断面の河床勾配をそのまま求め、河床勾配が負になるときは、等流水深とする。

の2つの処理を行えるようにした。

1.の方法は、計算水深限界水深もしくは、水深が求められない(収束計算が収束しない)場合、水深限界水深に置き換える方法(一般的な不等流計算の常流近似)に適応される。

2.の方法は水深計算の等流水深への置き換え処理(詳細は3.6参照)に用いるものとする。これらの切り替えは入力データではなく、プログラム内に記述したフラグの選択で行うようになっているが、通常は①の処理を選択する。

限界水深

任意断面・台形断面

限界水深は、次式が成立する水深である。

 ・・・(3.7)

任意断面・台形断面の限界水深は、3-2の水理諸元を用いて求める。

複断面

建設省河川砂防技術基準(案)同解説「調査編」P119の方法より、複断面の限界水深は以下の式が成立する水深を示す。

 ・・・(3.8)

ここで、:全断面の平均流速、:井田による合成径深で次式により求められる。

 ・・・(3.9)

ここで、合計流量が既知であるので、水深:を仮定して、各分割断面の流積を計算し、(3.8)式が成立するまで(実際の計算では所定の許容誤差内収まるまで)水深を変えて収束計算を行う。

不等流計算

本プログラムは常流近似の不等流計算によって水面形を決定する。すなわち下流側の水深を既知として上流側の水深を収束計算によって求める。

不等流の運動方程式は以下の式で表される。(建設省河川砂防技術基準(案)同解説「調査編」P115より)

 ・・・(3.10)

単断面の場合(台形断面)

単断面(レベル1の平均流速公式)の場合、運動量補正係数: (一定)とすると、

=0 ・・・(3.11)

ここで、摩擦勾配:とおき、(3.11)式を標準逐次計算法による表記で表すと以下のようになる。

 ・・・(3.12)

ここで、:水位、:区間距離を示し、変数の添え字はそれぞれ上流側・下流側を示す。(3.12)式が通常の矩形・台形断面で用いられている運動方程式の形式である。

下流側の断面の水理諸元と上流側の断面流量が既知として、上流側の水深を仮定して、(3.12)式が成立するまで(実際の計算では所定の許容誤差内収まるまで)水深を変えて収束計算を行う。

複断面の場合

複断面の場合、レベル2の平均流速の公式より、

 ・・・(3.13)

 ・・・(3.14)

(3.13)・(3.14)式を(3.10)式に代入する。

これを標準逐次計算法で表すと以下のようになる。

 ・・・(3.15)

以上より、(3.12)・(3.15)式を組み合わせれば、単断面・複断面が混在する河道についても不等流計算が実施できる。

尚、実際のプログラムは(3.12) ・(3.15)の右辺における1/2の部分が岡部らによる区間内平均エネルギー勾配の近似法によって、上流側と下流側でそれぞれ異なる係数で計算を行っている。

区間内平均エネルギー勾配の近似法:
「急流河川の1次元河床変動(その1)」:岡部 健士、砂防学会誌Vol.50,No.3,pp58~65,1997

複断面と台形断面が混在する部分の不等流計算

不等流計算は、下流側断面の水深を既知として、上流側の水深を計算していくが、同じ河道上で複断面と台形断面が混在する場合、平均流速公式のレベル1と2が混在することになる。

平均流公式によって、運動方程式の各項の取り扱いは異なるため、同じ項でも計算値のオーダーが全く異なる場合もあり、レベルの違う両者をそのまま1つの運動方程式で混在して取り扱うことは水理学的にも無理がある。

よって、以下のように平均流公式のレベルをそろえた形の取り扱いを行う。

上下共に台形断面

レベル1の平均流公式を用いて計算を行う。

上下共に複断面

レベル2の平均流公式を用いて計算を行う。

下流が台形断面・上流が複断面

レベル2の平均流公式を用いて計算を行う。下流の台形断面の箇所についても(6)・(7)式を適用する。

下流が複断面・上流が台形断面

レベル1の平均流公式を用いて計算を行う。下流側の複断面の流積:、径深:(井田の合成径深)として取り扱うものとする。

射流区間の取り扱い

本プログラムは、常流近似の不等流計算によって水面形の計算を行っている。当該断面の水深を計算するためには、下流側の水深(既知)を用いて運動方程式が許容の誤差範囲内で成立するように収束計算を行う。この時、求められた水深の値が限界水深より小さいもしくは収束しない場合、以下の2種類の処理によって当該断面の水深を決定する。

一般的な常流近似の処理

 当該水深を限界水深に置き換える。それによって、各断面の水深は常に限界水深以上の水深となる。

等流水深への置き換え

等流水深は、河床勾配によって大きく変化する可能性がある。特に河床勾配が小さくなった断面では、前後の断面と比べて等流水深が不自然に大きな値をとることとなり、射流区間でそのまま等流水深に置き換えると、下流断面水位と比較して不連続な水面形になってしまう。よって、以下のような処理を行う。

当該断面で水深計算の結果

  • 解が収束しなかった時、もしくは解が収束するが収束解<限界水深の場合
    • a.等流水深が値を持つ時:限界水深と等流水深の小さい方の値を用いる(射流域フラグを立てる)
    • b.等流水深が値を持たない時:「下流断面の水位と同じになるような水深」と「限界水深」を比べ、大きな用の値を用いる(射流域フラグ立てない)
  • 解が収束し、かつ収束解≧限界水深の場合(射流域フラグ立てない)
    • c.そのままの解を用いる

上流断面を計算する場合

  • (下流側に射流フラグが立っているとき)→下流断面の水深を限界水深に置換。
  • (下流側に射流フラグが立っていないとき)→下流側の水深はそのまま。

上流側の水深計算の結果

  • 上流の水深の扱いはa~c
  • 下流水深の扱い(下流側に射流フラグが立っているとき)
    • 上流がaの処理:水深を限界水深に置き換える前の値に戻す
    • 上流がbの処理:水深=限界水深のまま
    • 上流がcの処理:水深=限界水深のまま

 これら2種類の方法は、入力データではなくプログラム内のフラグ(変数名:iDep)の定義で操作の切り替えを行う。デフォルトでは①の方法を選択するようになっており、通常は①の方法を用いる。

ダム地点の取り扱い

通常のダム地点の取り扱いは、河道断面データ:KGS2とダム諸元のパラメータの指定によって行う。ダム・堰堤のみではなく、本川最下流端の水位を一定値で与えたい場合や支川の最下流端水深を限界水深で与えたい場合等、不等流計算以外の方法で水深を設定する場合に用いる。

ダムのタイプ

ダムのタイプには、以下の4種類がある。

  • 0:水位の指定のみ
  • 1:不透過ダム
  • 2:スリットダム
  • 3:限界水深
  • 4:限界水深と等流水深の比較

 ここで、「限界水深と等流水深の比較」とは、水深を限界水深とし、上流断面水深=等流水深の時、限界水深>等流水深であれば、等流水深を用いる。

起算水位or水通し標高(水位の指定のみ・不透過ダム・スリットダムの場合)

「水位指定のみ」選択時には、限界水深を下回らない範囲で、「断面の水深=起算水位-河床高」で当該断面の水深を設定する。

 「不透過ダム・スリットダム」選択時には、「設定値=ダムの水通し標高」とし、他のパラメータ(水通し幅・流量係数等)と共に堰堤の式より、流量から水深を逆算し、「その値+水通し標高-断面標高」を当該断面の水深とする。

水通し幅(不透過ダム・スリットダムの場合のみ)

 「不透過ダム・スリットダム」水通し幅を設定する。

○ 水通し部側岸勾配(不透過ダム・スリットダムの場合のみ) 水通し部分の形状が台形の場合の側岸勾配を設定する。勾配の設定は河道断面が台形形状の場合と同じである。

○ スリット部高さ(スリットダムの場合のみ) 「スリットダム」の場合、水通し部分とスリットの下端の高さを設定する。

○ スリット部幅(スリットダムの場合のみ) 「スリットダム」の場合、スリット部の幅を設定する。

○ 流量係数(不透過ダム・スリットダムの場合のみ)  「不透過ダム・スリットダム」の堰堤の式に用いる流量係数を設定する。

流砂量の取り扱い(不透過ダム)

「不透過ダム」選択時には、以下のように掃流砂を調節する。 a.河床高<水通し標高 : 掃流砂量をカット b.河床高≧水通し標高 : 掃流砂量を流す すなわち、ダムが満砂状態になるまでは、浮遊砂・ウォッシュロードのみを流下させる。

スリットダムの取り扱い

「スリットダム」選択時には、上流断面との区間距離の長短で水深・流砂量の取り扱いの方法が異なる。

支川の最下流端水位

河道の最下流端水位の設定は、ダム地点の設定方法を利用できる。しかし、別の河道に合流する支川の最下流端水位に合流河道の水位を反映したい場合がある。

この時には、断面データ作成用のマクロの「合流状況データ」シートで、合流する河道の水位考慮の有無を指定することができる。この時、合流河道の水位を考慮するように指定した場合、支川の最下流端水位は、ダム地点設定よりも優先される。

 
tysrba/3.水面形の計算.txt · 最終更新: 2011/10/19 18:57 by tys
 
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